Ogawa Lab

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Video Distribution研究内容

動画配信技術

研究の背景と狙い

有料動画や,企業内の守秘動画,治療時の撮影画像など,視聴者制限が必要な動画は,通常動画配信サーバが暗号化して個々の視聴者に配布します.さらに,再生時に配信サーバが視聴端末の認証を行うことで,視聴者を制限します.ところが,OSの機能などで再生中の画面をキャプチャされると,簡単にそれらの視聴制限を解除できるため,インターネットへの流出を防ぐことが出来ません.このため,重要な動画については,人間の目ではわからない電子透かし情報により視聴者のIDを埋め込んでから配布する手法が取られています.電子透かし情報はキャプチャされても影響がなく,専用のソフトで解析するとIDを抽出可能です.このため,キャプチャ動画がインターネットに流出されることを直接は防げませんが,流出時に流出元を特定できるので,流出抑止に効果があると言われています(上部図左).
ところが,電子透かし情報の埋め込みは処理量が多く,また,視聴者毎に異なるIDを埋め込む必要があるため,高性能(高価)なサーバが必要という問題があります.
一方,端末間で直接ファイル交換を行うPeer to Peer(P2P)通信方式が知られています.5Gサービスでは端末からネットワークへのデータ伝送帯域も大きく拡大するため,伝送帯域の観点では今後P2P通信方式がしやすくなります.P2P通信方式では動画配信サーバからは最初の端末にのみ動画配信を行い,以降は端末間の直接通信で動画を転送するため,動画配信サーバの負担が極めて少なくなるメリットがあります.視聴者制限を行いたい場合,配信サーバが認証後に再生(復号)を許可することで視聴者制限も可能です.ところが,P2P通信方式では全bit同一な電子ファイルを相互に転送するため,視聴者毎に異なる電子透かし情報(ID)を動画に埋め込む事ができない問題があり,これまで,視聴者制限が必要な動画の配信には適用できませんでした(上部図右).
小川研では,P2P通信でありながら再生時に異なる電子透かし情報を構成し,かつ,既存のブラウザを無改造で使用できる,新しいP2P動画配信技術を発明し,国際会議で発表しています[1].本技術により,視聴者制限が必要な動画について,高価な動画配信サーバを設置せずに,経済的なP2P通信による配信が可能となります.

実現方法の概要

同じ動画のコピーを2^n個作成し,それぞれ異なるID(コピーID)を電子透かし技術により全フレームに埋め込み,各コピーを数秒単位の短い動画(チャンク)に分割します.最初の2^n端末には,それぞれのコピーを1セットずつ配布します.2^n+1個目以降の端末には,配信サーバが送信元サーバをチャンク毎に指定し,受信側端末が受信したチャンク中のコピーIDの組み合わせが端末毎にユニークな数値(配布ID)になるように制御します.チャンクを1秒,n=2,動画の長さが10秒とすると,100万個の配布ID(20bit相当) を表現出来ます.一部のチャンク中のコピーIDの組み合わせを配布IDの冗長符号として割り当てることで,改竄の防止も可能です.なお,動画をチャンク化して配信する技術には,Apple社のHTTP Live Streaming (HLS)やGoogle社などのMPEG-Dynamic Adaptive Streaming over HTTP (MPEG-DASH)などがあります.特にHLSは既存の主要なブラウザで対応済みです.小川研技術もHLSと組み合わせることで,動画再生時に専用ソフトは不要で,既存のブラウザを未改造で使用可能です.

研究成果

企業内網で一般的になりつつあるSDN環境や,NAPTのないLAN内環境での実現方式を考案し,基本動作を検証済みです[1][2].2018年度イノベーション・ジャパンなどで発表しています.

さらに2023年度には,webRTCと組み合わせることで,NAPTのあるLAN内に位置する端末間でもインターネットを介して録画済み動画の共有が可能な試作ソフトの開発を完了し,基本動作を確認しました.

今後の予定

ストリーム配信への応用や,P2P通信以外への適用として例えばイベント会場でのマルチキャスト配信への応用についても今後検討する予定です.

参考文献

  1. Takeshi Ogawa, Manato Oishi, and Noriharu Miyaho, "P2P video streaming method with Copy protection based on SDN technology." International Conference on Digital Arts, Media and Technology (ICDAMT), IEEE, pp. 52-57, Mar. 2017. (最優秀論文賞)
  2. 柿沼翔太, 小川猛志, "IPネットワークにおける著作権管理可能なP2P動画配信方式の検討," 信学技報, vol. 118, no. 392, NS2018-182, pp. 25-30, 2019年1月.

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